この世にこんなことがあって良いものだろうか・・・。
否!!!あってはならない!!!
寧ろ有り得ない。
こんな屈辱的な姿になるのは初めてだ・・・っ!!
何故、ぬいぐるみ(しかも、聖明のテディベア)姿になった!?
とりあえず、冷静になろう。
今ここにぬいぐるみの身体があるということは
僕の身体もどこかにあるはずだ。
もしかしたら僕の身体にぬいぐるみの精神が・・・?
考えたくもない。
いや、もしかしたら聖明が僕の身体(なか)に入っている可能性もあるのでは?
どちらにせよ絶望的だ・・・。
早く本体(僕の身体)を見つけなければ。
現実的にありえない現象に困惑しながらも、不慣れな体を懸命に動かし始めた。
想像以上に動きにくいぬいぐるみの体。
いつも歩いている一歩という距離が果てしなく遠くに感じる。
そんな事を考えている中、ふと頭上に影が横切る。
同時に、大きな何かが僕の上へと圧し掛かる。
『いったい今度は何だ!?』
「いたぁ…何か踏んだ?」
床に転がりながらも、声の主へと視線を向ける。
そこには見慣れた顔。
「って!僕の身体じゃないか…!?」
代弁するように、僕の身体に入った誰かが叫ぶ。
反応からするに、恐らくぬいぐるみこと『パニョ』だろう。
というか、早く退け!
そんな悪態を心で吐いている中、聞き慣れた声が部屋を包む。
「風真~ただいまぁ。
お土産にオレンジピール買ってきたよ。
甘さ控えめだから…風真でも食べれると思う。
コーヒー淹れるからおやつタイムにしようよ。」
この馬鹿面で能天気な口調は・・・聖明だ。
ということは僕の身体に入っているのはぬいぐるみだろう。
さて、ここからどうしたものやら。
「あれ…風真?転んだの?大丈夫?」
「え…?」
聖明、それは僕であって僕ではない。
きっと気付いてくれると思うけど…不安だ。
声が出れば早いのだが、ぬいぐるみに声を発する術などない。
「風真…?どっか痛いの?」
「な、何でもないよ…パパ。」
「へ?パパ…?」
その一言に、思わず身体を見上げる。
ちょっと、待て!
僕の体で何て言った!?
さすがの聖明も驚いたのか、きょとんとした表情で固まっている。
もう発した言葉は消せない。
せめて、事情を説明するんだ!ぬいぐるみ!!
慣れない体で一生懸命、自身の肉体を叩く。
ぬいぐるみの手のため、ぽふぽふと力のない音を立てる。
それに気付いたようで、こちらを見る僕の体。
よし、気付いたな。
これでどうにか解決策を…。
そう思いかけたのも束の間だった。
僕の身体は不適な笑みを見せると、急に切り替えたように突拍子もない行動に移る。
「聖明♪」
「ふ…風真…っ!?」
どうして抱きついた!?
おい、待て!!!僕の身体で何してんの!?
嫌がらせ!?
「お土産ありがとう♪僕がコーヒー淹れるから、待っててよ。おやつタイムにしよ♪」
「は…初めてそんなことを風真から言ってくれた…。」
聖明も気付けよ!
普段、そんな甘え方したことないだろ!
恥ずかしい!許されるなら今すぐ逃げたい!
「聖明、いつもありがとう♪」
「…っ!?」
聖明も目を潤ませるぐらい嬉しいかったのか!?
あーもう!魔力感知とかでわかるだろ!?
お前ぐらいの力の持ち主なら…!
そもそも、ぬいぐるみが素直に「中身入れ替わっています。」なんて話すわけがなかったんだ。
直接どうにか伝えて、今の状況をどうにかしよう。
僕はどうにか聖明のズボンを引っ張った。
「あれ…パニョ君?どうしたの?
可愛らしく服なんて掴んじゃって♪」
よし、気付いたな。
「甘えたいのか、可愛いやつ♪」
僕(ぬいぐるみの身体)を抱き上げると満面の笑みで微笑みかける。
本当にこのぬいぐるみが大切なんだな。
とても嬉しそうな笑顔を向ける彼。
正直、聖明のこういう笑顔は好きだったりする。
まぁ、今はそんな事を思っている場合ではないけどな!
そう強く思い、目を見開いた瞬間だった。
急に身体が重くなり、視点が変わる。
あ…手がある。
元に戻れたのか?
どうなってるんだ。
とりあえず、戻れてほっとする。
あんな恥ずかしい行動をこれ以上やられたらどうなるのかと…。
待て、少なからず崩壊した僕をやつ(聖明)に見られてるんだよな。
「おい…聖明…そのぬいぐるみ寄越せ。
そして忘れろ、今すぐ忘れろ。
お前の記憶なくしてしまえ…っ!!!!」
「え…ふ、ふうま…ちょ…。」
有無を言わさず、僕は殴りかかった。
が、先程までぬいぐるみの中にいたせいか、感覚が鈍り壁に穴を開けてしまった。
まぁ、聖明の記憶が飛ぶまでは何度でも殴ってやるさ。
「ふ、風真…落ち着いて…!」
「問答無用!!!」
「や…やめ…!?」
ヤブ医者を仕留めた後は貴様だ
ぬいぐるみ。
⇒パニョ編
⇒聖明編(引っ越し中)