そう…事件はいきなり起きた。
誰も気付かぬ間にゆっくりとそれは起きていた。

『…背が伸びた!!!!!』

テディベアとして作り出され、18年。
伸びることもないと思われていた背が伸びたのだ。

これは我が偉大なる創造主・パパにお知らせしなくては…!!!

『僕ねっ僕ねっ、背が伸びたんだよ!!!!』

そんな気持ちでいっぱいになりながら、彼を探すべく駆け出した。
が、その瞬間、何か足に違和感を覚えた。
ふにっと柔らかな感触。
気付いた時には盛大に転んでいた。

「いたぁ…何か踏んだ?」

床に転がりながらも、足元を確認する。
そこには見慣れた可愛らしいテディベアが転がっている。

「って!僕の身体じゃないか…!?」

一瞬にして、色んな思考が押し寄せる。

え?幽体離脱!?夢!?
いや、ありえない。
確かに転んだ時、痛かった。

自分の両手を見た時、悟った。
紛れもなく、この身体は人間のもの。
そして、この声の持ち主は…。

悪寒と共に冷や汗が一気に溢れる。
そんなことつゆ知らず、陽気な声が家を包む。

「風真~ただいまぁ。
お土産にオレンジピール買ってきたよ。
甘さ控えめだから…風真でも食べれると思う。
コーヒー淹れるからおやつタイムにしようよ。」

愛しのパパ。
明らかに僕に向かって話を掛けている。
どうやら、間違いなくパパの友人・風真の身体に僕が入ってしまっているようだ。

「あれ…風真?転んだの?大丈夫?」
「え…?」

って!パパの顔が真ん前にあるよ!
いつも距離が近いけど、何かいつもと違うように感じる。

「風真…?どっか痛いの?」
「な、何でもないよ…パパ。」
「へ?パパ…?」

あ、やべ。
思わず、出てしまった言葉に後悔する。
そんな中、腰らへんをぽこぽこと殴られる感触がする。
は、と我に戻ったように視線を向けると、そこには僕の身体であるテディベアが凄いオーラで立っていた。

この有無を言わさない雰囲気…もしかしてこの中身が風真?

その瞬間、脳裏に過ったのは、風真に雑に扱われていた日々の記憶。
思わず、不敵な笑みが零れる。

絶好の復讐のチャンス。

風真を見てきた僕だからわかる。
彼は素直になれない子供。
パパに甘えたくても恥ずかしくてできない子。
ならば僕が代わりに甘えてあげようじゃないか!

「聖明♪」
「ふ…風真…っ!?」

こんなふうに急に抱きついてみちゃったり♪

「お土産ありがとう♪僕がコーヒー淹れるから、待っててよ。おやつタイムにしよ♪」
「は…初めてそんなことを風真から言ってくれた…。」

食べ物を食べてみるとか♪
(ぬいぐるみだったから食べたことない)
いつもできないことをして、親孝行したりとか♪

「聖明、いつもありがとう♪」
「…っ!?」

普段なら考えられないような風真の言動に、困惑しながらも悶えるパパ。
余程、嬉しかったのだろう。

「あれ…パニョ君?どうしたの?
可愛らしく服なんて掴んじゃって♪」

聖明のズボンを一生懸命引っ張るテディベア。
風真め…いったい何をする気だ?

「甘えたいのか、可愛いやつ♪」

パパはテディベア(風真)を抱き上げると満面の笑みで微笑みかける。

いやぁぁぁぁ!!!それは僕の特権だよ!!!!
僕のパパにに抱きつかないで!!
(正確には聖明が抱きついている)

そんな絶望的な気持ちを察してか、テディベア(風真)は確かに黒い笑みを見せた。
風真!?何それ、嫌がらせを嫌がらせで返す的なやつ!?

もう僕ぬいぐるみのままで良いもん!
神様、もう元の身体に戻して!!!

思いっきり目を瞑った瞬間、温もり僕を包む。
もしかしてパパに抱きしめられてる?
それにこの身体のもこもこ感…元の身体に戻れたぁぁ!

パパは、相変わらずの笑みで僕を抱きしめてくれる。
よかった、と思ったのつかの間だった。

「おい…聖明…そのぬいぐるみ寄越せ。
そして忘れろ、今すぐ忘れろ。
お前の記憶なくしてしまえ…っ!!!!」
「え…ふ、ふうま…ちょ…。」

凄い形相をした、風真が殴りかかる。
間一髪で避けたパパ。

しかし、壁に大きな穴が開いている。
あまりの威力に顔面蒼白になる。

「ふ、風真…落ち着いて…!」
「問答無用!!!」
「や…やめ…!?」

その後、断末魔の叫びが家を包んだ。
僕はというと、パパが囮になっている間に隠れました。

今日も平和な一日でした…?
 

⇒風真編
⇒聖明編(引っ越し中)

NOVEL TOP

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA